開業直後の弁護士がホームページ制作費を着手金と受任件数に換算する方法

開業資金の一部としてホームページ制作費を見積もる — 着手金と受任件数への換算

独立準備中にホームページの制作費の見積もりが来ます。高いのか安いのか分かりません。開業資金全体の中でこの金額をどう位置づけるかも整理できていません。事務所の敷金、備品、弁護士会の登録費用など、開業には他にも出費が並んでいます。その中で、ホームページに払う金額をどう判断するか。

制作費は経費ではありますが、ホームページが相談を呼び込む仕組みである以上、投資として見積もることができます。この記事では、制作費を自分の着手金と受任件数に換算して投資判断に使う手順を、順を追って示します。答えは一点の金額ではなく、自分の数字から出る幅です。

制作費は「着手金の何件分か」に換算できる

ホームページの制作費を投資として見積もるとき、最初にやることは「この金額は着手金の何件分か」への換算です。

たとえば、開業後に主に受ける分野の着手金が30万円で、制作費の見積もりが90万円であれば、着手金3件分です。着手金が20万円であれば4.5件分、50万円であれば1.8件分です。

ここで大事なのは、「3件受任すれば回収できる」とは言えないことです。制作費を払えばすぐに受任が来るわけではありません。ホームページを公開してから検索で見つかるようになるまでには時間がかかりますし、開業直後のサイトはコンテンツが少ないため、見つかるまでの期間はさらに長くなります。したがって「何か月で回収」という一点の答えは出ません。

出せるのは、「着手金○件分の投資に対して、月に○件のHP経由受任があれば、○か月前後で回収に届く」という幅です。この幅を自分の数字で出すのが、以下の手順です。

手順1 自分の着手金の水準を確認する

最初に必要なのは、換算に使う着手金の金額を決めることです。

開業前の段階では、料金表をこれから作るところかもしれません。勤務時代に扱っていた分野の着手金の水準を基準にするか、開業後に設定する予定の金額を使います。

開業後に複数の分野を扱う予定がある場合、分野ごとに着手金の水準は異なります。次の表に、自分の数字を入れてみてください。

取扱分野 着手金の目安 制作費 ÷ 着手金
(例: 離婚) (例: 30万円) (例: 90万 ÷ 30万 = 3.0件)

ここで注意する点が2つあります。

1つ目は、着手金だけで換算するか、報酬金も含めるかです。受任時に確実に入るのは着手金です。報酬金は事件の結果によります。まずは着手金だけで換算し、報酬金を含めた場合は別に計算しておくと、楽観的な見積もりと堅めの見積もりの両方が出ます。

2つ目は、ホームページ経由で来る相談が、どの分野に偏るかは公開するまで分からないことです。開業直後はサイトの内容も少なく、どの分野の相談が集まるかは予測できません。主要な分野それぞれで換算しておくのが無難です。

手順2 月あたりの受任見込みを幅で置く

次に、ホームページ経由で月に何件の受任が見込めるかを考えます。

ここが最も難しい部分です。開業前の段階では、ホームページ経由の相談の実績がありません。制作会社の営業が「月に○件の問い合わせが来ます」と言う場合、その数字がどの規模の事務所の、どの分野の、どの地域の実績から出たものかは確認する必要があります。

押さえておくべきことは次の通りです。

  • 一点の数字(「月3件来ます」)は、根拠を確認するまで使わないほうがよいです
  • 使うなら「月に0件〜○件」の幅で持ちます
  • 相談の件数と受任の件数は別です。相談が来ても受任に至らないことがあります

幅の置き方の例を示します。受任ではなく、まず「HP経由の新規相談」で考えます。

シナリオ HP経由の月間新規相談 うち受任に至る件数
楽観 自分で仮置き 相談件数 × 自分の受任率
中間 自分で仮置き 相談件数 × 自分の受任率
堅め 自分で仮置き 相談件数 × 自分の受任率

受任率は、勤務時代の経験から見当が付きます。ただし、ホームページ経由の相談者は、紹介で来た人とは異なり、事務所との接点がない状態で相談に来ます。開業直後は事務所の知名度もないため、紹介経由より受任率は低くなると考えておくほうが堅い見積もりになります。

手順3 回収期間を幅で計算する

手順1と手順2の数字が揃ったら、回収期間の幅を出します。

計算そのものは単純です。

回収に必要な受任件数(手順1) ÷ 月あたりのHP経由受任(手順2) = 回収期間(月)

たとえば、制作費が着手金3件分で、HP経由の月間受任が1件なら、回収期間は3か月です。月間受任が0.5件なら6か月です。楽観・中間・堅めの3つで計算すれば、回収期間の幅が出ます。

ただし、この計算には含まれていないものがあります。

  • 公開までの期間: 制作の発注から公開まで、数週間から数か月かかります。開業準備と並行して進める場合、このスケジュール調整が必要です
  • 検索で見つかるまでの期間: 公開してすぐに検索結果の上位に表示されるわけではありません。開業直後のサイトはドメインも新しく、コンテンツも少ないため、既存の事務所サイトより時間がかかることがあります
  • 運用費: 制作費とは別に、月々のサーバー代、保守費、記事の追加費用などが発生します。開業直後の固定費に加算されます

したがって、上の計算の回収期間はあくまで「制作費だけの回収」です。開業直後の収支計画の中で見る場合は、運用費を含めた総コストで計算し直すほうが実態に近い見積もりになります。

制作費だけでなく「作らなかった場合」も見積もる

回収期間の幅が出たとして、その数字だけでは「作るべきか、やめるべきか」は決まりません。

判断に使うために、もう一つ見積もるものがあります。それは「ホームページを作らなかった場合に、開業後の相談経路がどうなるか」です。

次の問いを自分に向けてみてください。

  • 開業後の相談経路として何を見込んでいるか: 前の事務所の先輩からの紹介、知人、弁護士会の相談センター、法テラス、ポータルサイトなど。ホームページ以外の経路で月に何件の新規相談が見込めるか
  • その経路はいつまで続くか: 前の事務所からの紹介が最初の数か月に集中して、その後減る可能性はないか
  • 制作費と同じ金額を別の集客に使ったら何が起きるか: ポータルサイトの掲載、リスティング広告など、他の選択肢に同じ金額を使う場合との比較

ホームページの制作費を「着手金の何件分」に換算するのは、制作費の側の見積もりです。判断には、もう片方、つまり「作らなかった場合」の見積もりが必要です。両方を並べて初めて「この金額を払う意味があるか」が見えてきます。

ここで押さえておきたいのは、ホームページと他の集客手段では費用の性質が異なることです。

比べるもの 費用の性質 やめたらどうなるか
ホームページ制作 初期投資 + 運用費 サイトと記事は残る。更新が止まれば検索順位は徐々に下がるが、すぐには消えない
ポータルサイト掲載 月額の掲載料 掲載をやめれば流入は止まる
リスティング広告 クリック課金 広告を止めれば流入は止まる
紹介 金銭コストは小さい 紹介元との関係が続く限り来るが、自分の意思で件数を増やしにくい

開業直後は、紹介やポータルサイトで短期の相談を確保しつつ、ホームページを育てて中長期の流入を積み上げる、という組み合わせを考えることができます。どれか一つに全額を投じるのではなく、費用の性質の違いを織り込んで配分を考えると、開業資金全体の中での位置づけが見えてきます。

見積もりの精度を上げるための確認事項

換算の手順とは別に、見積もりの精度を上げるために確認しておくことがあります。制作費を着手金で割る計算は、制作費の総額を正しく把握できていることが前提です。

確認項目を挙げます。

  • 見積書に含まれている範囲: デザイン、コーディング、サーバーの初期設定、ドメイン取得、SSL証明書、記事の初期作成、写真撮影のうち、どこまでが含まれているか
  • 制作後に発生する月額費用: サーバー代、保守費、ドメイン更新費。これらは制作費とは別に毎月発生し、開業直後の固定費に加算されます
  • 記事の追加費用: 制作時に含まれる記事の本数と、追加で記事を作る場合の費用
  • 修正の回数と範囲: 初期制作後の修正が何回まで含まれているか
  • 契約期間と解約条件: 最低契約期間の有無と、途中で解約する場合の条件
  • 納品後の所有権: サイトのデザインデータ、ソースコード、ドメインは誰の所有か

これらの追加費用を含めた総額で「着手金の何件分」を出すと、制作費だけで計算した場合より件数は増えます。開業後のランニングコストとして、1年目と2年目の総コストを出してみてください。

費用項目 金額 備考
制作費(初期) 見積書の金額
月額費用 × 12か月 サーバー・保守・ドメイン等
記事追加(年間) 本数 × 単価、または月額プラン
1年目の総コスト 上の合計
2年目の追加コスト 月額費用 + 記事追加(制作費は不要)
着手金の何件分(1年目) 1年目総コスト ÷ 自分の着手金
着手金の何件分(2年目累計) (1年目 + 2年目)÷ 自分の着手金

1年目の総コストで換算すると、制作費だけの場合より回収に必要な受任件数は多くなります。一方で、2年目以降は制作費が不要になるため、年あたりのコストは下がります。開業直後の資金繰りを考えると、1年と2年の両方で出しておくことをおすすめします。

まとめ

ホームページの制作費を投資として見積もる手順は3つです。まず自分の着手金の水準で制作費を割り、着手金の何件分かを出します。次にHP経由の月間受任を幅で仮置きし、回収期間の幅を出します。そして、その幅を「ホームページを作らなかった場合」と並べます。

一点の回収期間は出ません。出るのは、楽観から堅めまでの幅です。その幅に、公開までの期間、検索で見つかるまでの期間、制作後の運用費を加えると、実態に近い見積もりになります。

開業準備の段階で大切なのは、ホームページの制作費を開業資金全体の中で位置づけることです。見積書を受け取ったら、含まれている範囲と制作後の月額費用を確認し、1年・2年の総コストで着手金の何件分かを計算し直してみてください。

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